被写体を動かすことのできない建築写真。
建物の在る場所に立ち、そこにある光でとらえる。

それは様々な場所におもむき、自分の身体でその場をとらえる「旅」に似ている。

2003年、10月18日から11月6日にかけてメキシコに旅をした。
第一の目的は、ルイス・バラガンの建築を見ることだった。
そしてもう一つは「死者の日」で有名な街オアハカを訪れること。
その他、メキシコ第2の都市グアダラハラ、16世紀スペイン植民地時代に作られたコロニアル様式が今なお残るグアナファト、そしてモレーリアを訪れた。

「死者の日」とは11月2日に行われる日本で云うお盆のような行事である。
その日が近づくと、街はガイコツの人形やマリーゴールドなどの花で、色とりどりに飾られる。
当日の夜は、花で溢れた祖先の墓で夜を明かすのが通例で、墓守をする人々の姿はとても幻想的だった。

そしてルイス・バラガン。
個人の旅行で見学できたのはメキシコシティの『バラガン自邸』『トゥラルパンの礼拝堂』のみ。
その見学も、撮影は許可されず、施設の方が立ち会っての、ほんのわずかな時間だった。
残念に思いながらも、中に入った瞬間、自分を包む空気が一変し、圧倒された。

「自邸」は、一人静かに思考する為だけにつくられた哲学的な空間だった。室内に射す光によって生み出される影の静寂に包まれていた。
「礼拝堂」では、最小限の要素で構成された空間に導かれる光の美しさには、ただ息をのむばかりであった。

メキシコの強い陽射しのもと、色濃い木々や花々、町並みの色彩。そしてそこに作られる、深く濃い影。
その光と影を目にした時、ルイス・バラガンの作品が生まれた背景に少しだけ触れることができた気がした。

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